2016年、あけまして
おめでとうございます。
おかげさまで魔界も
新年を迎えることが出来ました。
これも偏に魔剣使いの皆様の
お力添えのお陰でございます。
思い返せば―――
そこまで言ったところで
私の背中の痛覚がビタンと刺激された。
誰かが背中を叩いたのだ。
「…痛いな、何するんだ。」
「痛いのはお前の演説だ。」
容赦の無い評価を下した彼は、
もう2,3度、繰り返して私の背を叩いた。
ふッと、独特の香水が鼻をかすめる。
緊張感の中に、何か懐かしさを感じさせる、
少しクールな柑橘系。
「ひどいことを言う。
君には私の言葉の高尚さが
わからないというのか。」
「あぁ、わからないね、まったく。」
訝しげなその顔を覗き込むも、
スルリと躱されてしまう。
いつもこいつはこうなのだ。
私のことを否定し批判しては、
その反論に耳を貸す素振りを見せない。
「で、その高尚な演説とやらは、
いったい何時終わるんだ?
言い方を変えれば――」
「言い方を変えれば、
何時になったら私の躰が空くのか、
…でしょう?」
『言い方を変えれば』は彼の口癖だ。
大して変わっていないこともしばしばだが、
それは彼なりの区切り、あるいは、
『大事だから2回いいました』と同等の
強調したい発言、意志、意図なのだと
私はそう理解している。
「そこまで私の躰を求められては、
流石の私も吝かではないぞ?
何ならスケジュールをズラして、
今まさに君の相手をしてもいい」
「ドヤ顔がうざい」
ぐえ。
額を小突かれてしまった。
まったく、酷いことをする。
この綺麗な顔に傷がついたら、
どうしてくれるというのだ。
「…これでも女の子なのだ、とでも
言いたそうな顔だな。
……あぁ、悪かったよ。
顔を突いたのは悪かった。
俺が全部悪い。」
「そうだ。大抵いつも君が悪い。
さっきの挨拶もそうだ。
あれでは最早、暗殺の類だ。」
「背中、そんなに痛かったか?」
「痛いというより、びっくりした。」
「…はぁ、悪かったよ。ほんとだ。
本当にそう思ってる。」
部屋の中をぐるぐると回りながら、
ぐるぐると謝罪の言葉を口する。
いつだってこうだ。
本当に悪いとは塵ほども思っておらず、
ましてや自分の方が正しいとさえ
思っているに違いない。
こいつはそういうやつだ。
「聞こえてるぞ。」
その刹那。
私の躰が宙に浮い――いや、
浮いた、というより持ち上げられた。
「わ、わ、わ!
な、何をする!!降ろせ!」
「さっき言っていたじゃないか。
スケジュールをズラしても良いと。
だから、ズラしてもらうことにした。」
彼は私をまるでお姫様のように抱くと、
その巨体からは考えられないほどの
俊敏な動作で部屋を移動し始めた。
…窓に向かって。
「ちょちょちょ!まさか、まさか!」
「ここは回廊が面倒だからな、
帰り道にしか使えないショートカットだ。」
「ば、ば、ばかああああああ!!!」
大きく開けられた窓から飛び降りる彼。
そんな彼の腕の中でプリンセス状態の私。
強い風が音を消し去る。
一面に見える、魔界の空。
「さぁ、行くぞ。我が魔剣。」
「あぁもう!バカマスター!」
はぁ…。新年会まであと数時間。
それまでに演説の練習はできるだろうか。
「開会の挨拶、楽しみにしてる。
お前なら練習しなくても大丈夫だろう。
言い方を変えれば――」
「…それまでは出撃に付き合え、と。
お好きにどうぞ、マイマスター。」
呆れ顔で私は彼にそう告げた。
彼の腕の中は、少しクールな柑橘の香り。
晴々しい今日という日にぴったりだ。
2016年、元旦。
今日も魔界の空は、とても澄んでいる。
[とある魔剣使いの朝]
今年もよろしくお願い致します。